認知症の人が「働く」デイサービス できることで社会参加を

06 Aug 2019

できないことも多いけれど、できることで社会とかかわっていこう−。認知症の人が、地域の「仕事」に携わるデイサービスがある。福祉の限られた空間で過ごすのではなく、開かれた社会の中で生きていく試みだ。認知症に関する国際会議でも、キーワードは「地域の暮らし」。関連して開かれた民間の会合では、交通や流通、金融などの取り組みを加速させようとの投げかけが行われた。(産経新聞2014年11月13日掲載)

東京都町田市にある介護保険のデイサービス事業所「DAYS BLG!」。スタッフがホワイトボードを見せながら、利用者一人一人に、午前中に何をしたいかを聞いていた。ボードに書かれた選択肢は、(1)ホンダの洗車(5台)(2)買い物(3)調理・ぞうきん縫い・タマネギむき−の3つ。デイサービスの活動は合唱や塗り絵が多いが、ここでは、いずれも「仕事」だ。

「どれにする?」

利用者は、ほぼ全員が認知症。ホワイトボードを見せながら聞くのは、考えているうちに選択肢が分からなくなってしまうからだ。選べない利用者には、スタッフが重ねて聞いた。

「外で過ごす? 中で過ごす?」

「外かな」

「じゃあ、洗車にする? 買い物にする?」

質問を絞り込んで、選択を助ける。運営するNPO法人「町田市つながりの開」の理事長、前田隆行さんは「選択ができると、満足感につながる。人の生活には、無意識の選択がたくさんあるのに、介護を受ける立場になると、トイレも自由に行けなくなって『お任せ』の生活になる。選ぶのが困難なときは、違いの明確な選択肢や、イエス、ノーで答えられる問いにして選びやすくします」と言う。

「仕事」の内容はさまざま。事業所内の炊事や洗濯▽ボランティア的なもの▽地域社会での「お互いさま」的な働き方−。ただ、外の仕事を探してくるのは容易でない。ホンダのディーラーでの洗車は、前田さんが1年半かけて開拓した。この日は3人が参加。スタッフ1人が付き添った。

青山仁さん(53)は、並んだ車の一台一台に丁寧にクロスをかけていく。車好きだが、若年性認知症と診断されて運転をやめた。「娘から運転をやめろといわれたときは泣きそうだった。『人を殺したらどうするのっ』と言われて…。昔は車に乗って海に行ったり、山に行ったりしたよ。ナンパもしたしね。いいなあ、こんな車に乗れたら」

仕事を提供する側も、迷った末での決断だ。ホンダカーズ・町田東店の戸木田次人店長は「新車ですから傷ついたら、という不安はある。でも、あの世代は車が好きで、車を大切にする。任せていいのでは、となった。高齢者は世の中の活動と接点があると孤立せずに済む。働いて汗をかいて、帰っていくときに目に力があるのを見ると、良かったなあと思います。必要とされ、役に立つことは重要なのでは」と協力的だ。

仕事は他にも、青果商の配達の手伝い、カラオケ店の敷地の草取り、ポケットティッシュへのチラシの折り込みなどがある。できないことは多いし、やってみたら、うまくいかなかったこともある。だが、できると分かれば、わずかだが謝礼も発生する。それが達成感や意欲につながる。周囲に認知症の人を理解してもらい、仕事ぶりを認めてもらい、彼らの受け取る謝礼が少しずつでも増えていくのが、前田さんの願いだ。

認知症になると、何も分からなくなり、何もできなくなるという偏見は根強い。前田さんは「福祉や介護の業界は狭い。業界の外に出ないと、理解も進まない。そこは当事者も頑張らないといけない。その結果、周りの目も変わっていく。企業が変わると社会も変わる」と話している。

民間主導で「暮らしやすく」

認知症の人の暮らしは、行政や医療・介護のサービスだけでは良くならない。地域で生活し続けるには、商店街で買い物ができたり、コミュニティーバスが使いやすかったり、近隣でちょっとした仕事ができたりするといい。民間の知恵や投資で社会の仕組みを変えていこうとの2つの会議が先週、開かれた。

1つは、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターと、認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ(DFJI)による「認知症フレンドリー社会をどのように実現するのか?」。もう1つは、OECD(経済協力開発機構)とNPO法人「日本医療政策機構」による会合。いずれも研究者や行政担当者だけでなく、福祉や企業など、分野横断的な関係者が集まった。

先の会議にゲストとして参加した英国・アルツハイマー病協会のジェレミー・ヒューズ会長は「専門職だけでなく、コミュニティー全体で生活を考えなければいけない」と発言。認知症の人が銀行口座の暗証番号を忘れてしまうことについて、同国の銀行業界が対応策を検討していることなどを紹介した。

英国では、認知症の人がバスに乗る際に目的地のカードを示すと、運転手が停留所で降ろしてくれる地域もある。民間企業の工夫で認知症の人がぐっと暮らしやすくなる一例だ。

DFJIの徳田雄人さんは「認知症の人が必要以上に自分の障害を感じず、スムーズに生活できる社会にしていきたい。そういう社会を作るには、行政や医療や介護などの伝統的なサービス領域だけでなく、認知症の人の生活を取り囲む都市計画、交通、金融、流通、情報通信など、さまざまな分野の取り組みが必要です」とする。

民間企業が商品やサービスを変えていくと、社会が変わる。徳田さんは「認知症にフレンドリーな物やサービスがあふれ、認知症の人が、商品やサービスを選択する消費者にもなっていってほしい。認知症の人だけでなく、高齢者や障害者、子供など全ての人が暮らしやすい環境になるはずです」と話している。

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