田辺鶴瑛さんの介護講談、映画化 義父を大嫌いから大好きに

06 Aug 2019

講談師、田辺鶴瑛さん(60)が認知症の義父を介護した経験を本音で語る「介護講談」が話題になっている。在宅介護のコツに、相手に合わせる、遊びを見いだす、ふまじめでいい−などを挙げる。これまではイベントなどで語る機会が多かったが、このほど、映画「田辺鶴瑛の介護講談」も完成した。静かに共感が広がっている。(産経新聞2016年10月13日)

鶴瑛さんは認知症の義父を平成23年に亡くすまで、約6年にわたり介護した。もともと折り合いが悪く、「おじいちゃん(義父)のことが大嫌いだった」と、鶴瑛さんは振り返る。平気で人を「バカヤロー」と怒鳴るのは、要介護5で寝たきりになっても、変わらなかった。

介護の過程で一度、手ぬぐいで義父をたたいたこともある。それまで、いいお嫁さんに思われたいと無理をしすぎた。怒鳴られてわれに返り、自己嫌悪に陥った。「弱い相手に手を出すなんて情けない。でも、いつもニコニコして介護するなんて、明日死ぬと分かっているならできるけど、毎日は無理です」

以来、開きなおった。本音で話し、無理をしない。「もう、あの世に行くの?」「いや、まだだな」などの会話も解禁した。本人が「見える」「聞こえる」と言うことは否定しない。「死人がゾロゾロ通る」と言われれば、「そんなにたくさん?」と応じる。自分も楽しもうと思い、「今日は、じいちゃんと何をして遊ぼうか」を考えるようになった。夜中に頻繁に起こされるため、試しに馬のかぶりもので部屋に行ったこともある。会話のやり取りは軽妙だ。

そんな鶴瑛さんの講談と介護の日々を撮影した映画「介護講談」が今年、完成した。製作した熊猫堂の荻久保則男監督は「きれいごとでない中で『家族の絆』を作っていく様子を伝えたかった」と製作の意図を語る。

映画には、在りし日の義父も登場する。数分前のことは忘れても、自身の学生時代の記憶は、昨日のことのように鮮明だ。鶴瑛さんが水を向ければ、母校の校歌を熱唱し、「青春の一ページだよ」と回想する。鶴瑛さんがおはこの講談「三方ケ原軍記」を聞かせれば、調子よく合いの手を入れ、「いやぁ、良かった」と感激する。その姿は幸せそうだ。

本音の介護の果てに、鶴瑛さんは「大嫌いだった義父を大好きになった。私自身も変わった」と言う。

映画は今年9月、東京都北区で開かれた「ストップ・ザ・介護殺人!」のイベントでも、医療職や介護職の講演と並んで上映された。演者の一人で在宅医療に携わる東郷清児医師は、試写会で映画を見て「これまで間違っていた」と思ったという。

在宅医として、患者の病気だけでなく背景まで見ているつもりだった。だが、まだまだ医療先行だった。以来、「今日は患者と何を話そうか」と思って訪問に行く。患者も自分史を語るようになった。「患者さんの性格や価値観も分かるようになり、それを知った上で、この医療が本当に必要かどうか考えられるようになった」と話している。

映画「田辺鶴瑛の介護講談」の上映会情報と自主上映会の申し込みは、http://kaigo-kodan-movie.net/

【プロフィル】田辺鶴瑛

たなべ・かくえい 講談師。北海道函館市生まれ。60歳。実母を、18歳で介護。結婚後は3年間、義母を介護した。いずれの介護も「頑張りすぎた」(本人)。平成17年に認知症の義父を介護し、23年にみとった。経験に基づく介護講談で知られる。

抱え込まず、専門職と連携を

終活ジャーナリストの金子稚子(わかこ)さんは、ムック本『親の看取り』(宝島社)で「親が倒れた」「退院を告げられたら」などに分けて、その後の道筋(フローチャート)を示している。

金子さんによると、親の介護で注意したい10のポイントがある。何よりも大事なのは、介護を一人で抱え込まないこと。医療職や介護職には、本人の状態変化に応じて相談する。特に「在宅介護では、訪問看護師が頼りになる」(金子さん)と言う。介護する家族の精神的な支えにもなってくれるはずだ。

地域の情報収集も不可欠。医療や介護の仕組みは全国共通でも、サービスを提供するのは地域の事業所。地域によって内容も違えば、配食やオムツ代の補助など特有のサービスもある。多様なサービスを活用できれば暮らしの質は上がる。地域の介護の総合相談窓口である「地域包括支援センター」をはじめ、ケアマネジャーや訪問看護師から情報を得たい。

気をつけたいのは、他人の体験をうのみにしないこと。死に向かう状態や条件は人それぞれ。他人の例が良くても、同様にできるとはかぎらない。金子さんは「なかには『親に感謝して介護すべきだ』などと、精神論を言う人もいるが、あくまでも自分の人生と親の人生を考えることが大切です」と言う。

専門職の力は必須。例えば終末期の体の痛みや苦痛は医療で緩和できる。だが、家族にも役割がある。金子さんは「死に近づいていくときの精神的な苦痛の緩和では、家族の方が糸口をつかめる可能性が高い」と言う。本人が人生で何を大切に思い、何に穏やかさを感じるかは、家族が一番よく分かる。「専門職は、健康なときの本人を知らない。だが、人生は『病気になってから』だけではない。家族にできることは、とても大きい」と話している。

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