シニアマーメイドと夢を共有する

2020/02/10

介護が必要になった後も、リハビリや暮らし方次第で状態がよくなることもある。一歩一歩、改善に伴走するのは介護職だ。本人の気持ちを引き立てるために、目標を掲げて意欲を引き出す。実現できないときもあるが、できたときの喜びはひとしおだ。

リハビリルームでは専門職らが自立を支援する

■低下するばかりでない

東京都世田谷区の介護付き有料老人ホーム「ウェルケアガーデン馬事公苑」で働く白石玲奈さん(24)は、新卒で介護職になった。「以前は、介護が必要になったら、状態は右下がりに落ちていくものだと思っていた。でも、改善する人もいる。水分をきちんと取り、歩くことで元気になるって、すごいと思う」という。

ホームで最近、「シニアマーメイド」と話題の女性がいる。95歳の松岡寿々子さん。昨秋、10数年ぶりにプールに入った。もともと、日本水泳連盟の水府流太田派の範士。日本古来の泳法で、水中で身を守ったり、戦ったりするために発展した「武士のたしなみ」だ。

松岡さんは昨年初めに転倒して入院。退院時には車いすが必要になっていた。要介護4になり、つえで歩けたのが、ベッドから起き上がれない。ふっくらしていたのがやせて、表情もぼんやりしてしまっていた。

年齢が年齢だけに、回復が見通せない。しかし、本人から「歩きたい」と希望が出た。水泳の話に懐かしそうに反応したのを見て、リハビリ職や介護職らが相談。「元気になって、プールに行きましょう」と声をかけた。

「また歩けるようになりたい」。その動機は、一人ひとり違う。

■半信半疑で

みんな半信半疑だったが、提案が的を得たのだろう。車いすで移動していたのが、大型の歩行器にもたれて移動するようになり、それが小型歩行器に〝進化〟し、さらにツエで歩けるまでになった。

白石さんは「毎日一緒だから変化が分かる。今日はここまで来た、今日は廊下を往復できた、と実感がある」と振り返る。屋内で歩けるようになると、外へ出た。デコボコのある戸外は難度が上がるが、気分が変わって思いがけず長く歩ける。「もう、無理」と言う松岡さんを励まし、「もう少し、行きましょう」と距離を延ばした。

十数年ぶりの水泳。松岡さんは、家族に水着を持ってきてもらい、試着して準備を整えた。本人も周囲も、「本当にプールに行くんだ」と気持ちが盛り上がった。

11月のよく晴れた午後。スタッフと家族が同行してプールへ。水の中では体が軽い。スタッフからは「あんなに泳げるんだ」と驚きの声が上がったという。

松岡さんは当日を振り返り、「泳げるかしら、と思っていたけれど、泳げました」と満足げ。「歩行練習中は、動かずにいたい日もあった。でも、精神的にも肉体的にもサポートしてもらった。やる気の出る指導法と、元に戻りたい気持ちが合致することが大切ね」と、元指導者らしい感想を漏らす。

介護職が提案する目標は相手次第。それぞれのかけがえのない思い出が動機になる。白石さんは、「ディズニーランドに行きましょう、ということもあるし、初詣に行きましょう、ということもある。屋外へ出られると、生活が開けていく」と実感している。

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