地域にもう一つの家族を作る=ぐるんとびー駒寄
神奈川県藤沢市の団地にある介護事業所「ぐるんとびー駒寄(こまよせ)」は、多世代が支え合う地域づくりを目指している。団地の一室で介護を行い、代表はじめ多くのスタッフも棟内に住む〝ご近所さん〟。別の一室では、要介護の利用者が他人と同居するシェアハウスの試みも。独自の取り組みを取材した。

■出会いでシェアハウス
「ぐるんとびー駒寄」で知り合い、同じ団地の部屋をシェアして暮らし始めたのは、80代の小島良子さん=仮名=と、臨床心理士の吉岡史絵さん(47)。2人は昨年初めて出会った。
発端は、要介護2の小島さんが、孫娘の働くぐるんとびーに一時宿泊にきたこと。認知症で一人暮らしが難しくなっていたが、介護付き有料ホームなどへの入居は費用がかかりすぎる。同居も困難で、家族は今後の生活に悩んでいた。
吉岡さんは、小学校3年の長男、伊織君(9)と暮らすシングルマザー。ちょうど住まいを探しているタイミングでぐるんとびーを訪れた。「子供が一人っ子なので、近所で親密な人間関係を作れる地域がいい」と吉岡さん。
だったら一緒に住んでみたら? そう提案したのは、「地域にもう一つの家族を作る」という目標を掲げるぐるんとびー代表の菅原健介さん(40)だった。
菅原さんは東日本大震災の被災地で支援コーディネーターを務め、多世代が支え合って暮らす必要性を痛感。平成27年に、「パークサイド駒寄」の一室に介護事業所を開いた。JR辻堂駅からバスで15分ほど、230世帯が暮らすコミュニティーは、高齢化率が約70%に上る。
スタートした事業所は、「小規模多機能型居宅介護事業所」。要介護の高齢者が通ったり、泊まったり、訪問介護に来てもらったりして、家で最後まで暮らすことを支えるサービスだ。ぐるんとびーでは、菅原さんや看護師、介護職らが団地内や近所に住み、24時間365日対応をリアルに実現する。
菅原さんは、「ここで暮らしているので、利用者が家に来て、そのまま一緒に飲んだりする。どこまでが仕事か分からなくなる(笑)が、各自の判断に任せています」。そんなコミュニティーゆえの提案だった。

■関係性を築く
2人が同居する間取りは3LDKで、小島さんの部屋は玄関に近い一室。母子は奥のリビングルームで過ごす時間が長い。トイレや風呂は共用だが、ほとんど顔を合わせることがない。「テレビの音が聞こえるぐらい。何もしないと本当に会わないので、時々差し入れをして会話をしています」と吉岡さん。伊織君は「会いに行くと楽しい気分になる」と、ゆっくり関係性が築かれている様子。
小島さんも、同居人の存在は認識しているようで、調子の良い時は伊織君に「今日は学校は?」と話しかけることも。小島さんの孫娘は、「一緒に住んでくれる人がいるのは安心。何かあったときに気づいてくれるだけでいい」と新しい関係を歓迎する。
「準家族という感じ」(吉岡さん)の同居がこの先どうなるか、聞けば誰だって気になるだろう。超高齢社会を、豊かに楽しく生きるすべを、誰もが模索する。吉岡さんは最近、知人からも「おばあちゃん、どうしてる?」と聞かれるとか。同じことはできなくても、「正解を固定せず、常に最適解を探している」(菅原さん)という姿勢は、今日からでも実践できそうだ。

小規模多機能型居宅介護とは・・・
認知症など要介護の高齢者が、自宅で最後まで暮らせるように作られた。通う・泊まる・来てもらう、などの介護サービスを受けられる。こぢんまりとした空間で、利用者とスタッフの数が限られているので、なじみの関係のなかで落ち着いて暮らせる。全国に約5400事業所。約14万人が利用する。