「気づく人」になる=職人技を見える化する

24 Oct 2019

どうして、あの人のケアは、うまくいくのか-。そんな現場の疑問に応えて、ベテラン介護職の〝気づき〟を可視化し、ケアを共有する試みが始まっている。利用者1人1人に合うケアを、根拠にもとづいて提供できれば、介護職のやりがいも増す。離職率の改善にもなると期待されている。

来日して11年になるインドネシア人の介護福祉士、シャー・ムシャルさん(中央)

■気づきを可視化する

9月の午後、鳥取県米子市の特別養護老人ホーム「よなご幸朋苑(こうほうえん)」のリビング。入所のタカコさん=仮名=が洗濯物をたたんでいると、介護福祉士の上田紀行さん(39)が雑誌を手にやってきた。

いつになくおしゃべりなタカコさんとの会話が一段落すると、上田さんはスマホに口を寄せて、つぶやいた。「タカコさん、いい表情です。雑誌が気に入ったのかもしれません」

スタッフが、ケアの過程で気づいたことを音声で入力したり、本人の表情やしぐさ、声などを「とても良い」「悪い」などの5段階評価で入力したりする。

蓄積されたデータは、スタッフごとの気づきや、利用者が受けたケアがグラフになってフィードバックされる。それを見ながら、チームでケアを振り返り、改善したり、まねしたりできる。上田さんは「以前は個々の経験やカンで動いていたが、根拠をもとに話し合えるようになった。良いケアを再現できる」と言う。

このシステム「MIMOTE」を開発したのは、慶応大学環境情報学部の神成(しんじょう)淳司教授。「高齢者にはそれまでの長い人生があり、望む生活も希望も人によって異なる。それをきちんと見るのが介護。声かけも人によって違うから、色々な人が気づきを共有することが大切」と言う。

特養のなかは、家族や来客への歓迎の気持ちがあふれる。この地方の方言で「よく、いらっしゃいました」

■職人技を共有する

医療と違って、介護は「治す」ものではないから、手順やプロセスが1つに決まらない。本人の有形無形の発信に気づいて、安心したり、落ち着いてもらったりできるかどうかが、良いケアの分かれ目になる。

MIMOTEの価値は、これまで職人技だった介護を、説明できるよう、情報に落とし込んだことだ。介護職1人1人の気づきや働きかけの違いが分かるから、「不思議とうまくいく人」が、相手の何に気づいて、どう対応したかが分かる。新人も納得ずくでまねられるから、短期間で熟練に近い気づきを習得する人もいるという。

「MIMOTE」に気づいたことを吹き込む。データが重要だけでなく、職場で情報共有して振り返るまででワンセットだ(写真を一部修正してあります)。

■「漢字要らない」

外国人介護職にも高評価だ。インドネシア人の介護福祉士、シャー・ムシャルさん(43)は、11年前に来日した。「今でも漢字は難しい。うまくいかないと、私はダメだと落ち込む。音声で入力できると、すごく助かる」と目を輝かせる。経験を積んだムシャルさんでさえそうだから、来日したばかりの人の負担の大きさが分かる。

よなご幸朋苑の高岡久雄施設長は、「若い人に、ベテランの『経験値』を伝えられるかどうかが鍵。着眼点が分かり、ケアが改善したと実感できると、介護職のモチベーションになる。離職も避けられると思う」と期待している。

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